東京都が推進するのが、区市町村における行政手続のデジタル化です。その推進事業の1つに、BPRによる業務改革があります。BPRとは、Business Process Re-engineeringの頭文字をとった略語で、現在の業務内容やフロー、組織の構造などを根本的に見直し、再設計することを指します。(区市町村における行政手続等デジタル化ハンドブック2.0版より引用)
今回、そのモデル事業の1つに選定されたのが、中野区の町会・自治会公益活動推進助成金交付事業のオンライン化です。
難しいと思われていた、町会・自治会の助成金申請のオンライン化。「ご高齢の方には、オンライン化は望まれないという先入観があった」と語るのは、中野区のプロジェクトメンバーです。実証実験を通じて、想像以上に区民がオンライン化を望んでいたことが分かったことで、区の他の事業へのオンライン化展開も自信をもって推進できると胸を張ります。その背景には、区民の利便性向上に向けた、区職員の想いが感じられました。
髙橋氏
東京都では令和5年度に「区市町村における行政手続デジタル化支援事業」を行いました。これは、都内区市町村の行政手続のデジタル化を推進するために、業務プロセスの最適化(BPR)から支援を行うというものです。今回、中野区の町会・自治会公益活動推進助成金交付事業のオンライン化が、都の支援モデル事業に選定され、取り組みが実施されました。
当時、このプロジェクトに携わったメンバーは、地域自治推進係から私と竹中、DX推進室情報システム課情報政策推進係(令和6年度現在はデジタル政策課デジタル政策係)の中山と中島、地域活動推進課庶務係の金子の5名です。
竹中氏
中山氏
金子氏
竹中氏
町会・自治会の公益的な活動への助成金交付にあたっては、事前に申請をいただく必要があります。中野区の町会・自治会は107あるのですが、手続や事務処理の煩雑さに課題をもっていました。特に、町会・自治会の方々の申請書作成の負担は大きく、計算間違いなどの書類不備による再申請が頻発するなど、申請手続だけでもかなりの時間を要していたと思います。
一方、区側でも、申請書の内容に不備がないか、計算間違いがないか一件ずつ確認が必要で、時間を要します。さらに、申請を受けてから振り込みまでを速やかに行わなければならず、効率化は必須でした。
中山氏
中野区ではこれまでもオンライン申請を推進してきて、プロジェクトの前年度から新たなオンライン申請サービスも使える状況にありました。新たなサービスでは、オンライン決済やマイナンバーによる本人認証も可能で、適用できる手続の幅が広がった分、オンラインで行える手続を増やすために、庁内で一歩踏み込んだ聞き取りなどを行わなければいけないというタイミングでもありました。
竹中氏
町会・自治会の方々にオンライン化へのご理解をいただくために、まずは試していただこうということで、体験会を実施しました。町会・自治会の幹部にはご高齢の方が多いので、オンライン申請は難しいのではないかという予想をしていたのですが、いい意味で裏切られました。想定よりもスムーズにご入力いただける方が多かったです。
中山氏
入力フォームのデザインがシンプルで分かりやすかったということもありますが、今の時代、みなさんデジタルにかなり慣れていらっしゃるなというのが率直な感想です。ご高齢であることを理由に半ば諦めていましたが、意外と無理ではなかったことは、体験会の大きな収穫だったと思います。先入観で諦めてしまうのはもったいないですね。
竹中氏
体験会の様子を見ていて、操作に慣れない人でも横について一つひとつ教えていくことで、かなり理解できるようになるということが分かりました。他の手続でオンライン化を広げていっても、こうした操作説明会などを行えば、オンライン申請の件数も着実に増えるだろうという、実感がもてました。追加で開催した体験会にも多くの方にお越しいただき、オンライン化に対する町会のみなさんの関心の高さが伺えました。実際に、107ある町会・自治会のうち、昨年度は30町会を対象とした体験会を実施し、今年度はすでに 40町会から申請をいただいているので、40%弱ですね。想定よりも多く申請をいただいている状況です。
中山氏
ただ、こちらで用意していたタブレットの仕様の問題で、入力時につまずく方も少数ですがいらっしゃいました。例えば、文字入力のところで、あいうえお形式であればスムーズにいくところを、ローマ字入力になっていると、わからなくなってしまうなどです。オンライン申請に対する苦手感は、端末の操作によるところもあると思うので、そこへの配慮も必要だろうなと思います。
髙橋氏
町会の方々が難なくオンライン申請できたというのは、今後の展開にも大きく寄与することです。我々と同じように、先入観でオンライン化へのハードルを上げていた部署でも、町会・自治会の手続でできたのだからやってみようとなってもらいたいですね。
竹中氏
まずは月に1回開かれる町会の会議で体験会の案内を行い、それとは別に郵送でも案内状を送りました。案内状も代表者宛てと、会計担当者宛てに作成し、それぞれお送りしています。町会の会議には代表者しかいらっしゃらないのですが、助成金の申請を担当している方にも知っていただきたいと思ったためです。
髙橋氏
髙橋氏
区や町会の事情を聞いて、知ろうとしてくださったのは、とてもありがたかったです。例えば、申請フォームや体験会の準備についてもそうですし、手引き書を作成する際なども、常にこちらの状況に寄り添ったご助言をいただけました。
竹中氏
チェンジのスタッフの皆様には、かなり区側に入り込んで対応いただいたなと思います。私たちも、よそ向きに取り繕った状態では、本当の課題解決にならないと思ったので、内部でのやり取りも含めて可能な限りオープンにすることにしました。中にはかなり直球のやり取りもあったと思います。しかし、そうした私たちの対応もしっかり受け止めて、話を聞いてくださいました。
金子氏
週1回2時間、担当の漆畑さんとやり取りさせていただく中で、もう逃げられないなという覚悟も生まれました。一生懸命取り組んでいただいたので、こちらも正直にいろいろと話せて、導入まで進められたのだと思います。
また、私はBPRの手法の横展開のため部内職員を中心とした研修を考えていたのですが、その講師は絶対に漆畑さんにお願いしたい、という信頼感も生まれました。実際に研修講師も務めていただき、職員からも「BPRがどういうものかわかった」「自分の業務に活かせる部分がある」と前向きな感想が多く出ました。
竹中氏
私は、部長や課長がプロジェクト推進について、我々に一任してくださったことも成功の1つの要因だと思っています。体験会を行うことについても、最後まで見守ってくださいました。
髙橋氏
実は、内部の話で恐縮ですが、このプロジェクトが令和5年度の地域支えあい推進部の部長賞を受賞しました。グッジョブ賞というもので、業務改善などの優れた取り組みを各所属で出し合って選考されます。内部からも評価をいただけたということで、これもまた嬉しい出来事です。
髙橋氏
私たちが業務改善・改革に取り組むのは、区民のみなさまの利便性向上のためです。手段と目的が混同して、本来の目的を見失わないようにしたいと思っています。このプロジェクトを他の事業に展開するときにも、その視点は大切にしていきたいです。
竹中氏
区長も常々話していますが、区の職員はできるだけ地域に出て、住民の方と交流する時間を多く持たなければなりません。今回のプロジェクトによって、申請書受領から審査、および報告書受領から審査までの合計作業時間が約50%削減できました。この削減できた時間を、職員が外に出て町会や自治会のみなさんと意見交換できる時間に充てられればと思います。
中山氏
手続オンライン化には、紙ベースでの手続が困難な方を助けるという視点もあります。例えば、高齢者の中には歩行が困難な方などもいらっしゃいますよね。そうした方にとっては、窓口に行かなくてもよいオンライン化のニーズは、むしろ高いのではないかと思います。今までもそうした視点はあったのですが、今回の件でより強く推進できるきっかけになりました。
金子氏
様々な手続などのオンライン化は区民の方の手間が少なくなるので、今後も広がっていくと思いますが、手続によっては本人確認の方法などがネックになる場合もあります。今回の取組と研修から学んだBPRの手法を取り入れながら、区民の利便性の向上につなげていければと思います。
髙橋氏