株式会社三井住友銀行(SMBC)は、急速に進化するデジタル時代に対応するため、ITデジタル人材の育成に力を入れています。インタビューでは、チェンジの研修プログラム「プロジェクト推進担当者研修」のカスタマイズ背景や、ITデジタル人材の育成を通じて、銀行業務におけるデジタル化の推進を図る取り組みについて、システム統括部の御園氏、香西氏、村上氏に詳しくお話を伺いました。
SMBCが目指すグローバルソリューションプロバイダとしてのビジョンと、それを実現するための人材教育の取り組みについて、ぜひご覧ください。
御園氏
私たちの所属するシステム統括部は、SMBCグループの情報システムを統括する部署です。例えば、グループ全体のIT戦略の立案や、それに紐づいたシステム投資予算の策定、システム運営、システムを使用するうえでのリスク管理ルールの制定、金融規制といった法的規制への対応などを行っています。また、システムインフラ周りに関する企画や運営全般を行うのも、システム統括部の業務です。その中で私たちのチームで行っているのが、ITデジタル人材の育成です。銀行もITデジタルを積極的に取り入れなければならない時代ですので、そうした業務に対応できる人材を増やすべく活動しています。今回チェンジさんに「プロジェクト推進担当者研修」を依頼させていただいたのも、その取り組みの一つです。
御園氏
対象となるのは、約5万人いるSMBCグループ全社員です。デジタル化の加速によって社会もお客さまも変化する時代、金融グループであってもITデジタルのことを理解することで、お客さまにより良いご提案ができると考えています。そのような背景から、全社的なデジタルマインド変革に力を入れています。例えば研修などは「デジタルユニバーシティ」という組織で、グループ会社であるJRIと協同で運営しています。また、ITデジタル分野に特化した採用活動も近年開始しました。私たちのチームが中心となりながらも、各事業部門やITデジタルに関わる部署を巻き込んでインターンを行うなど、採用活動も推進しているところです。
御園氏
まず、この「プロジェクト推進担当者研修」の前に、「ビジネスアナリスト養成研修」という研修を始めました。これは、IT投資がどんどん伸びるなかで、システム案件の企画ができる人材、業務要件定義ができる人材を増やしたいということで始まったものです。「ビジネスアナリスト養成研修」もチェンジさんにご依頼し、徐々に企画できる人材が増えてきたと思います。しかし、企画は出るようになったものの、かねてより、大型プロジェクトになると、プロジェクトを推進する段階で、思うように案件が進まない場面がありました。プロジェクトを企画するスキルと推進するスキルは別物です。そこで、今度は推進するスキルの向上にも力を入れようということで、今回の「プロジェクト推進担当者研修」を行うことになりました。
香西氏
そうですね。関係者の数もあると思います。関係する人が増えるほど、それぞれが重要視するポイントが異なるので、意見を取りまとめるのも難しくなるでしょう。例えば、業務部門ではシステムにおいてお客さまの使い勝手を重視しますが、私たちシステム統括部目線では、経営・事業・IT戦略にそれぞれ整合しているかの観点でもシステム案件をみる必要があります。特定のステークホルダーの要望を重視したことで、結果的に使いにくいシステムになってしまうのでバランスが重要になってきます。さらに複雑化するのは、経営判断などが加わるときです。特に大型プロジェクトは予算規模が大きいだけに見通しも難しく、要件が途中で加わるなどして、予算を大幅に超過するということも起こり得ます。つまり、大型プロジェクトの担当者は、「経営・事業・IT」の3つの戦略を一体として推進しなければならないということです。ステークホルダーの合意形成や、管理ができる人材でなければ、大型プロジェクトの推進は難しくなります。
香西氏
ご提案をいただいた中でよいなと思ったのは、シナリオを使うというアイディアです。よくある事例を基にしたシナリオを作成し、時系列に沿ってトラブルに対応していくというやり方は、システム案件に携わった経験が少ない私でもイメージしやすかったです。大型プロジェクトを想定して、多種多様なステークホルダーのマネジメントのエッセンスをいかに漏らさないようにするかということは、研修プログラムのカスタマイズをチェンジさんと一緒に検討する中でずっと念頭に置いていました。
御園氏
実際、「こんなに問題が起きていたらプロジェクト回らないよ」というほど、いろいろなイベントが起きるようなシナリオになっています。ステークホルダー側の人に受けてもらってもよいかもしれません。
村上氏
カスタマイズの背景でいうと、チェンジさんにはSMBCの要望に沿って開発いただけたと思います。研修の開発をチェンジさんに依頼する前に、SMBC側で大型プロジェクトを経験した人や、普段プロジェクトマネジメント業務を行っている人に必要なスキルをヒアリングし、まとめる作業を行いました。結構な項目数だったと思うのですが、チェンジさんはその全てを盛り込んだ銀行でのよくあるシナリオとして仕立ててくださったのです。それはすごいなと思いました。これまでのSMBCでは、プロジェクト推進のスキルは実際の仕事を通して学ぶ以外方法がなかったので、こうして研修を通じて業務に必要な専門知識を体系立てて学べるようになったのは大きいことだと思います。
村上氏
システム企画開発のプロジェクトに携わった経験がある人が、「実際にこういうことあったな」など、振り返りながらワークに取り組まれていたのが印象に残っています。プロジェクトの推進手法を講師から学ぶインプットと、さまざまなトラブルにどう対応すべきかを考えるアウトプットの両方で知識の定着をはかるという手法は、受講者からも学びになったと好評でした。
香西氏
私はトライアル受講者でもあるのですが、手前味噌ながらとてもよい研修内容だったと思います。2日間という時間的な制約はあるものの、難易度もちょうどよく、今後の業務に活かせるというコメントも他の受講者から多くいただきました。
御園氏
トップダウンとボトムアップの両面があります。まず、前社長の太田が「社長製造業」と銘打って、新しい業務にチャレンジする従業員を積極的に支援するというムーブメントを起こしてくれたことが非常に大きかったです。
それにより、DI・DXに繋がるようなシステム企画開発にも予算がかけられる道ができたことで、これまで何かやりたいと思っていた人が、挑戦しやすくなりました。この背景には、冒頭にもお話した通り、デジタル化で急速に変化する社会やお客さまに対し、SMBCグループも変わっていかなければいけないという強い危機感がありました。
さらに、同時期に社内SNSのような環境もでき、社内でデジタル活用アイデアの発信も活発になりました。
加えて、生成AIが身近になったことも追い風となり、我々もそうした技術を活用しなければならない、変えないといけないと思った従業員が、いち早く動ける環境が整ったことも後押しになったと思います。
御園氏
直接的に現業でデジタルに携わる機会の無い方も多く、そういった方々に対して、研修や動画を用意したから見てね、では興味を持ってくれるはずがありませんので、最初は本当に泥臭く、デジタルツールの良さを実際に使ってもらって理解してもらうため、各営業店を行脚して勉強会やワークショップをやるなど、地道な活動をしました。デジタルマインドを全社に広げないと、お客さまに今後も価値あるご提案ができなくなるという危機感があったからです。その他にも、新人研修にデジタルに関するカリキュラムを組み入れました。最初からデジタルマインド・リテラシーに触れる機会を作っておくこともとても重要だと思ったからです。
香西氏
実は私と村上は、各営業店への勉強会でデジタルの必要性を教えられた一人です。2020年頃だったと思いますが、デジタルマインド及び今後のデジタルの方向性について教わりました。今の部署や企画部署に異動したいという気持ちが芽生えたのも、そのことがきっかけです。あの草の根運動のようなものは、1日1日を切り取ると非効率に思うのですが、実は意外と近道だったのではと、影響を受けた側の私は思います。
村上氏
SMBCグループでは、金融/非金融に関わらずお客さまや社会の役に立つ、グローバルソリューションプロバイダーになるという中長期のビジョンを掲げています。デジタル化によって変革していく社会や、お客さまのニーズにお応えしていくために、まずは自分たちの変革が必要です。私たちが自分事としてデジタルの必要性を捉え、重要性に気づき、必要な要件を言語化できるスキルを習得しなければなりません。今回の「プロジェクト推進担当者研修」も、グローバルソリューションプロバイダーになるための取り組みの一環です。
きっとこれからも、ITデジタルは金融業界だけでなく、社会全体に大きな影響をもたらします。SMBCグループはその流れをリードする存在として、お客さまに価値提供を行っていかなければなりません。そのなかで、私たちが取り組む人材育成は、急激な変化を起こすことも、その効果を測ることも難しい領域です。ですが、少しでもお客さまに多くの価値提供ができる人材を増やせるよう、引き続き取り組んでいきたいと思います。